技術分野

構造・流体解析

技術レポート

ガスエンジン開発における応力解析と疲労強度評価

1.はじめに

 近年FEM(Finite Element Method)応力解析においてオートメッシュや大規模計算を用いることで、エンジンなどの複雑な形状を接触条件も含めて解析することが可能となりました。今回はその事例として、川崎重工業(株)機械ビジネスセンター殿向けに行いましたガスエンジン開発における応力解析と疲労強度評価を紹介します。

2.ガスエンジンとは

 機械ビジネスセンター殿で開発された新型ガスエンジン「グリーンガスエンジン」は、天然ガスや都市ガスを燃料とするエンジンで、発電設備の実証プラントにおいて世界最高の発電効率を実現した環境性能が非常に高いエンジンです。【図1参照】。

  • 図1 ガスエンジンを含む発電設備の概観 KG-18(18シリンダー)
    図1 ガスエンジンを含む発電設備の概観
    KG-18(18シリンダー)

3.エンジンのFEM解析の近況

 FEM解析では、まず対象となる形状を格子状に分割(メッシュ分割)する必要があります。しかしエンジンなどの複雑な形状はメッシュ分割が困難なため、これまでは簡略形状や検討箇所を特定したズーミング手法で解析するのが一般的でした。ところが近年、バーチャルプロダクトの一環で3次元CADが普及し、この3次元CADデータを用いた四面体要素オートメッシュで、複雑なメッシュ形状を短時間で作成することが可能になりました。またオートメッシュで膨大となった解析データとボルト組立を考慮した非線形解析(接触問題)には多くの計算コストが必要となります。そこで計算機(PC)の大規模メモリー化(64Bit)や並列計算により、これら大規模計算に対応できるようになりました。
 なお現在当部では、200万節点規模の非線形解析が5時間程度で解析可能な設備を有しています。

4.ガスエンジンの応力解析と疲労強度評価

図2 1/2カット解析モデル

図2 1/2カット解析モデル

 ガスエンジンの1シリンダーについて、疲労強度で問題となる応力集中部の角Rも含めたメッシュ分割をオートメッシュで作成しました。 形状を作成した主な部品はヘッド、シリンダーライナー、エンジンフレーム、ボルトになります。(図2参照)

図2 1/2カット解析モデル

図2 1/2カット解析モデル
 応力解析と疲労強度評価の手順を以下に示します。
  • STEP1:冷却と発熱条件を与えて定常熱伝導解析を行い全体の温度分布を求める。【図3参照】
  • STEP2:ボルト締付力と上記温度分布を与え非線形応力解析(接触問題)で発生応力を求める。
  • STEP3:爆発力を与えた非線形応力解析(接触問題)で発生応力を求める。【図4参照)】
  • STEP4:STEP2、STEP3で求めた発生応力を耐久限度線図にプロットし疲労強度評価を行う。 【耐久限度線図は、省略させて頂きます。】

 評価結果から構造を改良し、疲労強度が満足するまでこの手順を繰返しました。

  • 図3 温度分布
    図3 温度分布
  • 図4 応力分布
    図4 応力分布

5.まとめ

 ガスエンジンの開発における応力解析と疲労強度評価で以下のことが達成できました。

  1. オートメッシュを用いることで、複雑な形状の応力集中を正確に求めることが出来ました。
  2. ボルト組立による接触を考慮することで、精度の良い外力条件の解析が出来ました。
  3. 上記により解析精度が向上し疲労強度評価の精度も向上しました。
  4. オートメッシュと大規模計算を用いることで解析作業が時間短縮でき、開発期間内に多くの改良構造の検討を行うことが出来ました。