ゲスト
 
29号インタビュー「海の安全を保障する」海の安全を保障する 山本 規雄氏
1.事業内容についてお教えください。
 日本海事協会は、IACS(アイアックス:国際船級協会連合)に加盟している日本で唯一の国際船級協会です。船と言うのはワールドワイドに航行しますので、貨物や人命の安全確保のために海上保険に入りますが、その保険料率を決めるためには審査が必要になります。ロンドンにある保険業者協会が「船級条項」と言う保険料率を決めるための条件を出しており、我々のような保険組合で認められた船級協会の審査に合格した船については、安全が確認されたと言うことである程度の料率で保険に入れることになっています。
 船級の登録は、規則に従って設計されているかを図面で審査し、その図面通りに、承認された正しい製品を使って作られているかを造船所で確認した上で行われます。また、登録した後も船を定期的に検査し、登録時の状態が維持されているか、不具合がないかなどの検査も行います。これが主な業務になります。
 他には、審査や検査をするよりどころとなる技術的な規則の開発です。技術は日々進歩しますので、それに応じた新しい合理的な規則を開発する必要が生じてきます。そのための研究開発を行っています。
 現在私のいる研究センターのビルには、開発部と研究所が入居しています。開発部は規則の開発・制定を行い、研究所はその規則開発の基礎となるような技術的な研究や、技術的背景をしっかり作るための支援、あるいは業界で日々研鑽されている研究成果に遅れをとらないように研究を行う部門になります。
研究センタービル
【研究センタービル】
2.日本海事協会での登録の対象となる船は日本のものですか?
 船と言うのはちょっと変わっていまして、どこの国で作られた船であっても、人間だと戸籍にあたる船籍を自由に選ぶことができるのです。例えば日本のオーナーが日本で作った船でも、リベリアやパナマなどの船籍をとることも可能なのです。しかし、IMO(国際海事機関)が採択した国際条約に批准している国の船籍を取得する場合は、その条約に合致しているかの審査を受ける必要があります。日本海事協会ではそのような国(リベリアやパナマなど)の政府に成り代わり、条約に基づく検査や証書の発行もしております。
 船籍はいろいろな条件を比較してオーナーさんや荷主さんが選ばれます。こうしたオーナーさんや荷主さんの意向で、日本の船でも海外の船籍や船級協会を利用される場合もあります。
 規則は基本的に各船級協会で独自に開発していますが、最近ではIACSの中での共通規則を作る動きがあります。現在タンカーとバルクキャリアについては国際統一規則ができています。その他の船については各船級協会によって得意不得意があります。また、現場検査での品質確認はどうしても個々の人間の能力に依存しますので、検査員の教育や研修などが大切です。
 船が入港する際にはポートステートコントロールと言って、各国政府が入港許可を出すために、定められた安全規則を満たしているかを確認する立入検査を行います。お客様は今までの経験や、登録する船と同タイプの船についての損傷率、そしてポートステートコントロールでの成績などを基準に船級協会を選ばれているようです。
3.研究員の日常業務についてお教えください?
 ここ数年は国際統一規則を作るための技術的な整理とか、規則案作成などを主にしています。あと、そういうのとは別に通常の基盤的な研究も行っています。
 私はもともと信頼性工学の研究を行っていたのですが、構造物の健全性を評価するとなると、どうしても船の場合は劣化などが対象になってきます。そこで、疲労や腐食などについて研究していました。そういった研究の一環として、川崎重工業の疲労センサを船体構造でどのように使えるかと言う研究もさせて頂きました。
 船と言うのは非常に大きいので、疲労亀裂が出る可能性のある箇所が沢山ありますが、疲労亀裂が入ったからと言って構造物自体がすぐに危なくなるわけではありません。ただ、船は外洋の色んなところへ行きますので、小さな亀裂でも、もしかしたらそこから油が漏れだす事もあるかも知れません。今は全世界的に海洋環境保全について厳しくなっていますので、そういうことを起こすと致命的な事故になりかねません。ですから船主さんは疲労亀裂に大変神経を使われています。ですが、疲労と言うのは時間がたてばどうしても出る可能性がありますので、疲労が出る前に予測して手当てをしたいと言う希望が潜在的にあります。そうした時に、その船の疲労度がどの程度進んでいるかを判定するのに疲労センサが使えるのではないかと研究しています。
 船は国際統一規則では25年以上使用できるように作ることになっています。LNG船や客船など、高価な船では30〜40年は当たり前に使われています。そうすると疲労を考える必要がありますから。
4.川重テクノロジーとのお付き合いは?
 昔から色々とお付き合いはありましたが、最近では前述の疲労センサの関係が大きいですね。
 川崎造船、川崎重工業、日本海事協会で、疲労センサを使った船の余寿命診断に関する研究をしたのですが、船と言うのは橋梁や鉄道車両の車軸などとは使われかたがかなり違っていますので、使用できるかどうかの検証実験を川重テクノロジーにお願いしていました。また、日本海事協会単独でも実際に船で実験を行っていますが、その際の設置・計測作業(貼付・点検作業)と寿命診断も川重テクノロジーへお願いしています。
 川崎重工業はグループ全体で技術力が非常に高く、色々な解析のノウハウをお持ちなので、非常に助かっています。
5.海外出張へ行かれることも多いのでしょうか? その際にご苦労などございますか?
 IACSの規則を統一化する活動が増えてから、研究開発部門でも海外出張が増えてきました。世界の海のシステムは、長年西洋の国が中心になって作り上げられたものです。しかも、IACSに加盟している10ヶ国のうち東洋の国は日本、韓国、中国のみで、後は全て西洋の国です。ですから、東洋人は一生懸命仕事をしないとなかなか対等には話をする事はできません。彼らにとっては通常のやり方でも、そこに一緒になって、特にこちらの意見を通すとなると、彼らよりかなりの努力をしなくてはなかなか難しいのです。また、言葉の問題もあります。先日のトヨタの社長の場合でもそうですが、もしも英語が母国語だったらもっとうまく納得させられると思うのですが、母国語ではない英語で、自分の考えや思いを表現するのはかなり難しいことです。やはり、日本企業が海外に出て成功するには、一番大きな問題が言葉ではないかと思います。直接イメージに繋がっていきますから。よほどしっかりしてないとなかなか対等な立場にはなれません。
 IACSの会議はいくつかの協会が集まって案件ごとに会議をします。それらの会議の議長を務める協会でその会議を行うことが通例になっています。以前私も議長を務めたことがありますので、その時は日本で会議をしましたよ。今はABS(米国:アメリカンビューロー)だとヒューストン、DNV(ノルウェー:デット・ノルスケ・ベリタス)だとオスロなどへ集まっています。
 海外へ行って驚くものの一つに食べ物もありますね。ドイツへ行った時にはお店でチーズを注文して、食べようと思って口の前まで持って来た時に臭いが強すぎて断念したことがあります。美味しいのでしょうけど、本当に臭いがすごくて。他にノルウェーは魚料理が豊富ですが、地元では魚を醗酵させたような物を好んで食べられます。私はやっぱり臭いがダメで。食べ物が美味しいと感じるのは、ヨーロッパだったら地中海沿い、アメリカなら西海岸でしょうか。
6.プライベートな質問になりますが、ご趣味は何でしょうか?
 歌舞伎やバレエなどを見に行くのが好きです。あと、最近ブームになっていますがお城を見に行くのも昔から好きでしたね。
 歌舞伎は仮名手本忠臣蔵が好きです。役者だと坂田藤十郎の動きがきれいで好きですね。時々銀座の歌舞伎座まで家内と一緒に観にいきます。あとバレエですが、古典が好きでチャイコフスキーなんかに好んで行きます。
 お城では大阪城がやっぱり好きですね。スケールと言い、城構えと言い、大きいお城は他にも色々ありますけど、やっぱり風格が全然違いますよね。昔先輩ですごくお城が好きな人が居て、石垣に刻印が入っているのを「何藩がどこから持って来たのか、これを見れば解るんだ」とかって、色々教えてもらいました。あとは神社仏閣とかも好きで、年に何度か行っていますね。
 何にせよ古いのが好きなんですね。音楽もクラッシックが好きだし。
7.弊社に対して何か要望などはございませんか?
 技術的なことは長年の経験と積み重ねがないとなかなか出来ません。ですから、やりたい事があってもすぐにできない場合があります。そういう場合にご相談にのってもらったり、あるいはこちらからお願いしてやって頂いたり、そういう事ができれば非常にありがたいです。そうすると効率的に成果も出せますし。業界の技術基盤を支えてくれるような、そんな活動をして頂けると非常にありがたいですね。
財団法人日本海事協会
研究センター 技術研究所
主任研究員 工学博士
山本 規雄 氏
1983年8月 入社 開発部へ配属
1987年4月 技術研究所へ転籍