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環境

技術レポート

揮発性有機化合物(VOC)の分析

1.概要

 浮遊粒子状物質や光化学オキシダントに係る大気汚染の状況は未だ深刻であり、現在でも浮遊粒子状物質による人の健康への影響が懸念されています。また、世間では光化学オキシダントによる健康被害が数多く届出されており、緊急に対処することが必要となっています。

 こうした背景により、平成16年2月3日に中央環境審議会より意見具申「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制のあり方について」がなされました。これに伴い、我が国においても浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因となる揮発性有機化合物(以下「VOC」と言う。)のうち固定発生源に起因するものについて、包括的に排出の抑制を図っていくことが提案されました。

 以上の経緯により、国会において大気汚染防止法の一部を改正する法律が成立し、同年5月26日に公布され、平成18年4月1日から適用されました。

2.法律の内容

 この法律は、VOCの排出を抑制するために、法規制自主規制の双方の政策手法を適切に組み合わせること(ベスト・ミックス)を基本としています。

3.規制対象施設

 規制対象となる施設については、今回のVOC規制が、自主的取組を最大限に尊重した上での限定的なものであることを踏まえ、法規制を中心にVOCの排出抑制を図っている欧米等の対象施設に比較して相当程度大規模な施設が対象となるように設定されています。

 EUのVOC規制における規制対象施設の規模条件(VOC年間消費量)は、我が国で規制対象になると思われる施設については概ね0.5~25トン/年であることから、それと比べて「相当程度多い」量としては、50トン/年程度が適当とされています。

 以上の考え方により、各施設ごとに設定する規模要件は、いずれも潜在的VOC排出量50トン/年程度を目安として設定する必要があります。

 現在規制の対象となっている施設の一覧及び排出基準「表-1」にまとめています。

■表-1【揮発性有機化合物(VOC)規制対象施設と排出基準値】

VOC排出施設 規模要件 排出基準
塗装施設
(吹付塗装に限る)
排風機の排風能力が100,000m3/時以上のもの 自動車製造の用に
供する塗装施設
既設700ppmC
新設400ppmC
その他の塗装施設
700ppmC
塗装の用に供する乾燥施設
(吹付塗装及び電着塗装に係るものを除く)
送風機の送風能力が10,000m3/時以上のもの 600ppmC
ただし、木材・木製品(家具を含む)の製造に供するもの 1,000ppmC
接着の用に供する乾燥施設
(木材・木製品の製造の用に供する施設及び下欄に掲げる施設を除く)
送風機の送風能力が15,000m3/時以上のもの 1,400ppmC
印刷回路用銅張積層板、合成樹脂ラミネート容器包装、粘着シート又は剥離紙の製造における接着の用に供する乾燥施設 送風機の送風能力が5,000m3/時以上のもの 1,400ppmC
グラビア印刷の用に供する乾燥施設 送風機の送風能力が27,000m3/時以上のもの 700ppmC
オフセット輸転印刷の用に供する乾燥施設 送風機の送風能力が7,000m3/時以上のもの 400ppmC
化学製品製造の用に供する乾燥施設 送風機の送風能力が3,000m3/時以上のもの 600ppmC
工業製品の洗浄施設
(洗浄の用に供する乾燥施設を含む)
洗浄剤が空気に接する面積が5m2以上のもの 400ppmC
ガソリン、原油、フサナその他の温度37.8℃において蒸気圧が20kpaを超える揮発性有機化合物の貯蔵タンク
〔密閉式及び浮屋根式(内部浮屋根式を含む)ものを除く〕
1,000kL以上のもの(ただし既設の貯蔵タンクは容量が2,000kL以上のものについて排出基準を適用する) 60,000ppmC
注)「送風機の送風能力」が規模の指標となっている施設で、送風機がない場合は、排風機の排風能力を規模の指標とする。
注)「乾燥施設」には、「焼付施設」も含まれる。
注)「乾燥施設」はVOCを蒸発させるためのもの、「洗浄施設」はVOCを洗浄剤として用いるものである。
注)「ppmC」とは、排出濃度を示す単位で、炭素換算の容量比百分率である。

4.分析方法と除外物質

 VOCとは「大気中に排出され、又は飛散したときに気体である有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質は除く)」と包括的に定義されています。しかし、VOCは非常に多種に及ぶことから、排出抑制対策を行う事業者や地方公共団体が全てのVOC個別物質を測定することは、作業性並びにコスト面から考えても現実的ではありません。このため、VOCはその構造に含まれている炭素含量を測定します。

 VOCの測定には「触媒酸化-非分散形赤外線分析計(NDIR)」又は「水素炎イオン化形分析計(FID)」いずれかの分析計を使用して測定することが規定されています。

 弊社では「水素炎イオン化形分析計(FID)」を用い、分析計はヤナコ製の「全炭化水素自動計測器(EHF-770)」(写真-1)を使用しています。

高速液体クロマトグラフ

写真-1 ヤナコ製 全炭化水素自動計測器 EHF-770】

 前述の、『浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない政令で定める物質』とは全8種類あり「表-2」に示しました。なお、これら除外物質はVOC排出施設において使用又は発生させている場合において測定します。また、これら除外物質は「表-2」に示した通り、成分に対応した分析方法で測定しなければなりません。さらに除外物質を含む試料を全炭素化水素自動計測器で定量した場合、分析値に正の誤差を与えてしまうことから、得られたVOCの濃度から個別に測定した除外物質を差し引くことが基本となっています。しかし、測定に係る負担軽減の観点からVOCの排出濃度が排出基準値以下の場合には、除外物質の測定をする必要はありません。

■表-2 【除外物質一覧とその分析方法】

名 称 分析方法
メタン GC-FID(水素炎イオン化検出器)
クロロジフルオロメタン
2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロエタン
1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン
1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン
3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン
1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン
GC-MS
(ガスクロマトグラフ法+質量分析計)

5.VOC濃度の測定(大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について)

〔1〕測定方法

 VOC排出者は、当該VOC排出施設に係るVOC濃度を告示に定めた方法で測定し、その結果を記録しておかなければなりません(法第17条の11)。
告示においては、個々の物質を測定するのではなく、VOCの炭素数を捉えて包括的に測定することとし、分析計としては、「触媒酸化-非分散形赤外線分析計(NDIR)」又は「水素炎イオン化形分析計(FID)」を使用することとなっています(告示別表第1の第1の2)。

〔2〕測定の回数

 測定の回数は、年1回以上です。

〔3〕測定の結果の記録

 測定の結果は、所定の事項を記録し、これを3年間保存する必要があります。記録する様式は特に定めていません(規則第15条の3)。なお、測定の結果について都道府県知事への報告義務はありませんが、法第26条の規定に基づき、都道府県知事は報告を求めることができます。

〔4〕測定を行う時間及び時期

 (1)測定行う時間

 VOCが排出される工程では、バッチ式の操業が行われる等、常に平均的な濃度でVOCが排出されるとは限らない状況が多いため、捕集バックによる試料採取は、20分間行うこととしています(告示別表第1の第4の1(3))。

※現地試料採取装置は「図-1」を参照

現地試料採取装置

【図-1 現地試料採取装置】

 (2)測定を行う時期

 試料の採取は、一工程でVOCの排出が安定した時期とすることとなっています(告示別表第1の備考1)。

 ここでいう「一工程」としては、使用するVOCや施設の操業状況等を勘案して排出濃度が最も高くなると考えられる工程です。

 ただし、排出ガス処理装置の運転の開始時又は切り替え時等における、ごく短時間に限り特異的に高濃度の排出が生じる場合のVOC濃度については、測定値から除外することになっています(告示別表第1の備考2)。

〔5〕一施設で複数の排出口を有する場合の測定方法

 一施設で複数の排出口を有する場合、全ての排出口において測定する方法の他、以下のいずれかの方法をとることも可能です(告示別表第1の備考3)。

 施設の構造等から最高濃度のVOCを排出している排出口が特定できる場合は、当該排出口において測定します。

 各排出口からのVOC濃度を測定し、その値を以下の式のように排出ガス量で加重平均します。この場合、排出ガス量の測定は、JIS Z 8808(排ガス中のダスト濃度の測定方法)に定める方法によります。なお、施設の構造等から、VOC濃度を一部の排出口で代表させることができる場合には、当該排出口におけるVOC濃度を測定すればよいことになっています。

VOC濃度の加重平均値

C:各排出口のVOC濃度 V:各排出口の排出ガス量 n:排出口の数