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57号インタビュー 鉄道車両ビジネスの未来を切り開く技術開発 川崎車両株式会社 技術統括本部長 高嶋 忠夫 執行役員に聞く
写真 高嶋氏と熊本社長
川崎車両設立について
熊本社長: 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 本日は、昨年10月に設立されました川崎車両株式会社に於いて技術統括本部長を務めておられます高嶋忠夫執行役員にお話を伺います。
 高嶋さんは、1983年に川崎重工業に入社され、長年、航空宇宙分野のシステム開発、そして品質保証部門に従事された後、2019年に旧車両カンパニーに移られて技術全般を統括する立場になられました。
 川崎車両株式会社がスタートしましたね。
高嶋統括本部長: 当社は、1906年に川崎重工業にて鉄道車両製造を開始して以来、常に技術の先端を歩みながら鉄道モビリティの進化の一翼を担ってきました。
そして、事業開始から115年となる、昨年10月1日に「川崎車両株式会社」として新たなスタートを切ることになりました。
この間、電車・貨車・機関車・ディーゼル機関車など数多くの車両や各種鉄道システムへと拡大し、115年の歴史とともに蓄積された優れた技術と高い生産性を備えた鉄道車両専門工場である兵庫工場と、米国の2つの工場からさまざまな鉄道車両を世界各地へ送り出しています。
熊本社長: 大変長い歴史を刻まれていますが、今後の鉄道車両ビジネスの方向性を教えてください。
高嶋統括本部長: 鉄道はエネルギー効率が大変高く環境に優しい輸送手段です。鉄道による旅客輸送のCO2排出量は、航空機の1/5弱、自家用乗用車の1/7弱しかありません。脱炭素社会に於いて鉄道は人とモノの移動に欠かせないものです。
 現在は、新型コロナウイルスにより人流抑制の影響を受け、鉄道利用者が減少したため、鉄道関連事業に逆風が吹いています。しかし、中長期的には鉄道の未来は明るいと考えています。発展させていくためには、社会の急激な変化に対して、常に進化し続ける必要があり、環境に与える負荷も更に低減して二酸化炭素排出ゼロを目指さなければなりません。
熊本社長: そのことが新会社の企業理念「私たちは、ものづくりと技術革新への挑戦を続け、安心の日常と感動の未来を約束します」に込められているのですね。
高嶋統括本部長: そうですね。ものづくりと技術革新に挑戦することにより進化し続けて、お客様に満足を提供するということです。一方で、挑戦を続けるには、従業員にも新たな気持ちで働いて貰うことが不可欠です。大変嬉しいことに、これをチャンスと捉えて、新しいことに挑戦するぞ、という雰囲気になっていることです。その一つとして、新会社の企業理念は、自発的にさまざまな階層から約30人が集まって、議論に議論を重ねて作り上げたものです。更に、彼らは、企業理念を具現化するために社員が取るべき行動を記した行動指針も作りました。
熊本社長: 企業理念や行動指針を志ある従業員の皆さんが中心となって作ったというのは大変頼もしいですね。そういえば、2年ほど前に御社の従業員の方々が会社の方針について議論されている様子を見る機会がありましたが、自由闊達かつ真剣に議論されていたのが印象的でした。
川崎車両の注力ポイント
熊本社長: 新会社が成長していくための注力ポイントを教えてください。
高嶋統括本部長: 第一には、お客様である鉄道事業者より発注頂いている案件をしっかりと完遂させることです。代表的な案件としては、ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄車両R211が挙げられます。
 当社は、米国に2つの拠点を構えており、東海岸の鉄道事業者に多くの車両を納入しています。特に、ニューヨーク市交通局に関しては、1982年に地下鉄電車(R62)を受注して以来、継続的な受注により、2,200両を超える納入実績を有しています。 2018年に契約した新型車両R211は、ベース契約535両に加えて、最大1,077両のオプションが付随しており、全て行使された場合には1,612両に達し、当社における過去最大規模となります。この案件を約束した品質と納期を守って完納することが不可欠です。昨年7月に、第一編成(5両)を納入することが出来ました。営業路線試験を含めた約1年の各種検証試験を行った後、営業運転を開始します。それと並行して量産も開始しますが、直接のお客様であるニューヨーク市交通局だけでなく、R211を利用する乗客の方々に満足して頂ける車両を安定して造って行くために今後も努力を重ねていきます。
 それとともに、社内的には収益目標を確実に達成することにより、研究開発や設備などの将来への投資を継続的に実施していかなければなりません。更に、従業員には成功体験を積んで貰って、我々の仕事が社会に求められる重要なものであることを再認識して頂くことにより、モチベーションの維持・向上に繋げて、より良い車両造りを実現し続けたいと考えています。
ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄電車「R211」
熊本社長: 20年以上前ですが、ニューヨーク市交通局向けの地下鉄車両R142Aの開発時に、車体の強度解析を中心にお手伝いをさせて頂きました。貴社と川崎重工の技術開発本部様とともに要求を満足する車両の開発を成し遂げ、衝突試験が成功したことを鮮明に覚えています。
 その他の注力ポイントを教えてください。
高嶋統括本部長: 鉄道車両事業に関しては、車両本体を製造して鉄道事業者様に納めるだけでなく、その後のメンテナンス事業があります。現在は大半の鉄道事業者様が自らメンテナンスをされていますが、少子高齢化のためメンテナンスの自動化・省力化を可能にするロボットなどに対するニーズが高まっており、この分野に於いて幅広い製品群を扱う川崎重工グループとして出来ることはたくさんあります。従来から当社が行っている交換部品の供給を含め、メンテナンスに関するコト売りビジネスに注力していきます。
 また、メンテナンスをすべきタイミングや程度を知るために必要な車両の状態監視へのニーズも高まってきています。これまでの時間基準保全(Time Based Maintenance)に状態基準保全(Condition Based Maintenance)を加えることにより、安全性や信頼性を更に高めることが出来ます。
 更には、メンテナンスの自動化が容易な車両の開発ということも考えられます。
Kawasakiグループビジョン2030について
熊本社長: 川崎重工グループでは、Kawasakiグループビジョン2030の中で注力する3つのフィールドとして、@安全安心リモート社会A近未来モビリティ(人・モノの移動を変革)、Bエネルギー・環境ソリューションを掲げていますが、川崎車両の事業との関係を教えてください。
高嶋統括本部長: 先ほども言いました様に、鉄道は環境負荷が低い移動手段です。鉄道を普及させること自体がBエネルギー・環境ソリューションと言えます。更に技術開発を推し進め、二酸化炭素排出ゼロを目指します。消費電力を更に削減するための車両開発にも継続的に取り組んでいます。
 @安全安心リモート社会に関しては、鉄道と無関係に思われるかもしれませんが、そうではありません。鉄道を安全に運行させるためには、車両や軌道などの点検が欠かせません。このような点検は作業員が目視で行うことが多く、特に軌道の点検に最も手間と時間が掛かります。夜間の営業時間外しか点検が出来ませんから、毎日少しずつ点検していくことになります。適切な点検が現場から離れた場所(リモート)で自動的に行えるようにしていくことは大変重要なことだと思います。少子高齢化が進む国内では、特に重要になってきています。
熊本社長: 具体的な取り組みが有れば教えてください。
高嶋統括本部長: お客様のお困りごとのひとつに、「定期的な作業員の目視」があります。これを解決するものとして、軌道材料モニタリング装置をJR東日本殿や日本線路技術殿と一緒に開発しました。この装置は専用の保守車両では無く、営業車両に搭載するもので、営業走行中にレール締結装置や継目板の状態を検測し、そのデータを別途画像処理することによって異常を自動的に判定します。この装置を使うと、路線全体を毎日検測することも可能で、適切なタイミングにメンテナンスを行うことが可能となります。
 また、直近の案件としては、北米で開始した軌道遠隔監視サービスが挙げられます。このサービスは、センサーやカメラなどの監視装置を車両に設置し、営業運転時に軌道の幅や高さ、ゆがみなどを走行しながらリアルタイムに計測・解析し、軌道の異変が発生すれば即座に鉄道事業者に通知します。そして、蓄積したデータを分析し、適切なメンテナンス時期を予測・提示することで、効率的な軌道の保守支援が可能となります。また、営業運転時にデータ収集することで、検査専用車両の運転頻度や目視点検を減らすことができるようになり、省人・省エネ化だけではなく、コスト低減にも寄与します。
 この新しいサービスの契約を大手鉄道輸送会社と締結し、同社が管理する路線を走行する機関車に監視装置を搭載して、軌道の常時監視などの保守支援を行います。
軌道遠隔監視サービスのイメージ
提供データ(軌道変位5項目:軌間、高低、通り、水準、平面性)
北米で開始した軌道遠隔監視サービス事業
熊本社長: 軌道の点検およびメンテナンスは、作業員の方たちが夜間などに苦労して行っているイメージがありましたが、点検に関しては営業車両で昼間に行えるようになってきたということですね。そうすると、作業員の方たちはメンテナンス作業に集中できるとともに、計画的に行えるということですね。
 ところで、川崎車両は車両メーカーなので車両の点検・保守かと思われますが、軌道の点検・保守なのですね。
高嶋統括本部長: 車両だけに拘っていては真の顧客満足は得られません。鉄道全体を見て、車両メーカーだから出来ることは何か?と考え営業車両による軌道の点検装置の開発に至りました。
 勿論、車両本体に関しても取り組んできています。鉄道車両に於いては、車輪の摩耗や支持部材の劣化によって、だ行動と呼ばれる不安定現象が発生する可能性があり、永く放置すると脱線に至る場合があります。また、車軸軸受や歯車装置,継手など駆動伝達系でトラブルが発生すると安定運用を阻害します。これらを回避するために、その予兆となる振動や温度上昇をセンシングする台車遠隔監視・診断システムBIDS(Bogie Instability Detection System)を開発しました。この装置は、台湾高速鐡道殿、旧中国南車グループ(現中国中車)殿に納入され現在も運用されています。
これらの軌道材料モニタリング装置や台車遠隔監視・診断システムは、川崎重工の技術開発本部および川崎車両で開発したもので、川重テクノロジーには量産の一部を担当して貰っています。
台車遠隔監視・診断システムBIDSのシステム構成
将来を見据えて
熊本社長: 新生川崎車両株式会社の今後の活動を分かり易くご説明頂きありがとうございました。川重テクノロジーとしては、目指すべき方向がよく理解できました。
高嶋統括本部長: 川崎車両のビジネスは、車両製造だけでなく点検や保守に拡大しており、多くの技術パートナーと組んでいかなければならず、川重テクノロジーも重要なパートナーです。今後も幅広くコラボレーションさせて頂きたいと考えていますのでよろしくお願いします。
熊本社長: 私たち川重テクノロジーも、川崎車両と密接に連携しながらともに歩んで参りたいと思います。本日は、どうもありがとうございました。
高嶋統括本部長: こちらこそ、どうもありがとうございました。
(2022年 正月)

高嶋 忠夫 氏(たかしま ただお)

川崎車両株式会社 執行役員 技術統括本部長
1983年 川崎重工業株式会社 入社
2014年 航空宇宙カンパニー 技術本部 副本部長
2017年 航空宇宙カンパニー QM推進本部長
2019年 車両カンパニー 准執行役員 カンパニー付(プロジェクト管理担当)
2020年 車両カンパニー 技術統括本部長
2021年 川崎車両(株) 執行役員 技術統括本部長
*組織名は在籍当時のものを記載