ショールーム 業界の今を知る
 
1. はじめに
 ゴムや樹脂製品を劣化させる原因の一つとして、オゾン劣化が挙げられます。
 「オゾン(ozone)」というのは、3つの酸素原子からなる酸素の同素体で非常に強い酸化力を持つ物質として知られています。オゾンは、大気中に極微量に存在している物質ですが、このオゾンがゴム・樹脂製品の伸長された部位に分子レベルで攻撃します。すると、ミクロ的にはオゾンに攻撃された部位の化学結合が切断され、マクロ的には製品の伸長方向に対して直角方向に「オゾンクラック」というき裂が発生します。オゾンクラックが進展すると、やがて、製品は崩壊してしまいます。この一連の劣化現象を「オゾン劣化」と言います。
 あの石油ファンヒータの発火事故もエアホースがオゾン劣化で損傷したことが発端と言われています。このように、比較的安価なゴム・樹脂製品の不具合が重大事故を招き、多大な損害賠償責任を追及される問題へと発展することもあります。
 一度事故が起きてからでは、取り返しがつきませんので、新製品の開発時には是非ともゴム・樹脂製品について耐オゾン性を評価することをご検討いただきたいと思います。
オゾン劣化で損傷したゴムホース
オゾン劣化で損傷したゴムホース
2. オゾン劣化試験とは
 オゾン劣化試験は、予め引張ひずみを与えた試験体(ゴム・樹脂製品)を屋外よりも過酷なオゾン環境下で規定時間暴露したときの、試験体のき裂の発生状況を観察する試験です。すなわち、ゴム・樹脂製品をオゾン環境で使用したときの「き裂の発生しにくさ」を迅速に知ることができる試験です。
 表1 代表的な試験方法
規格 試験方法・条件
JIS K 6259 加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-耐オゾン性の求め方-
・温度: 40±2℃
・オゾン濃度: 500±50ppb(ppb=0.001ppm)
・引張ひずみ: 例えば、20%
・試験時間: 2時間、4時間、8時間、24時間、72時間、96時間
JIS D 0205 自動車部品の耐候性試験方法 (WAO 促進耐オゾン性試験)
・温度: 40±2℃
・オゾン濃度: 500±50ppb
・引張ひずみ: 原則20%
・試験時間: 部品の必要条件によって受渡し当事者間で協定する
 その他、お客様のご要望の試験条件や、目的に応じた適切な試験条件方法も提案させていただきます。
3. オゾン劣化試験機と仕様
 当社で新規導入したオゾン劣化試験機は様々な試験条件に対応できます。
オゾンウェザーメータの外観
オゾンウェザーメータの外観
■装置仕様
装置
: オゾンウェザーメータ OMS-HNZ (スガ試験機製)
試験槽内寸
: 500×500×500mm 12本掛け
オゾン濃度範囲
: 0.2 〜 300ppm
温度調節範囲
: (室温+10℃)〜100℃
動的試験装置
: ストローク0〜50mm / 繰返し速度0.5±0.025Hz
4. オゾン劣化試験実施例
 では、実際に当社で実施した静的オゾン劣化試験の事例をご紹介します。
 本試験は、屋外環境で使用される輸送機器部品についてオゾン劣化試験を行い、オゾン暴露後の劣化状況および部品性能を確認した試験です。
①評価対象
 輸送機器部品(A、B)
②試験条件
・試験方式 静的引張ひずみを与えたオゾン暴露試験
・温度 40±2℃
・オゾン濃度 500±50ppb
・暴露時間 72時間
③試験結果
 <オゾン暴露72時間後の表面観察結果>
  ※JIS K 6259 附属書JA「き裂の状態の評価」に準拠
輸送機器部品A (き裂なし) 輸送機器部品B(無数のき裂発生)
輸送機器部品A(き裂なし)
輸送機器部品B(無数のき裂発生)
 オゾン劣化試験を実施することでゴム・樹脂製品の耐オゾン性を迅速に評価することができます。新規材料選定時または市場不具合原因調査の一環として、オゾン劣化試験を是非ご利用いただきたいと思います。
5. 関連する試験・分析ソリューション
 当社では、本試験以外にもオゾン劣化に関連する試験・分析ソリューションを提供させていただきます。
1)損傷調査
 損傷を生じた試験体および製品の調査を行い、損傷状態を確認します。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、オゾン劣化部では、表面に多数の比較的浅いき裂が発生し、破面には塊状の粗い凹凸が形成されています。一方、き裂開放による強制破断部の破面は平滑な破面様相を呈しており、異なることが分かります。このようにき裂の発生状況や破面模様を詳細に観察することで、損傷原因の推定を行うことができます。
オゾン劣化部の破面(10μm/目盛) 強制破断部の破面(10μm/目盛)
オゾン劣化部の破面(10μm/目盛)
強制破断部の破面(10μm/目盛)
2)屋外暴露試験
 直接屋外暴露試験は、オゾン劣化試験と同じく工業材料の耐候性を評価する試験であり、大気環境に試料を暴露し、それらの化学的性質、物理的性質及び性能の経年変化を調査する試験です。オゾン劣化試験のような促進劣化試験ではありませんので試験時間は長期間かかりますが、屋外暴露と同時に計測する環境因子(日射量,紫外線量など)をもとに製品の正味の耐候性を定量的に知ることができます。
屋外暴露試験装置の外観
屋外暴露試験装置の外観
3)オゾン劣化防止剤の特定
 本質的に耐オゾン性の乏しい、分子内に二重結合を多く有するゴム種(例えば、NBR,SBR等)には、一般的に「オゾン劣化防止剤」という有機添加剤を配合し、ゴム・樹脂製品の耐オゾン性を向上させる対策が必要と言われています。
 当社では、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)等によりゴム・樹脂製品に配合されたオゾン劣化防止剤の種類を調べることができます。これより、その製品について耐オゾン性対策が講じられていたかを知ることができます。また、損傷調査の際には不具合原因を裏付ける情報の取得にも役立ちます。
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)
5. おわりに
 以上、当社のゴム・樹脂製品の劣化評価関連技術をご紹介させていただきました。
 当社では川崎重工グループが提供する多種多様な製品に用いられているゴム・樹脂製品について多数の試験・調査経験を保有しています。これらの経験を活かしてお客様の技術的課題の解決に取り組んでおります。お困りの際は、ご相談ください。必ずお役にたてるものと確信しております。
(2017/7)
分析ソリューション部 分析技術課
福永 雄大
お問合せはこちらから