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1. はじめに

 みなさんは、X線と聞くと何を思い浮かべますか?病院や歯科医院でのレントゲン撮影は最も身近なX線利用かもしれません。技術系の方なら、分析装置や非破壊検査を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
 X線回折装置は、化学成分の分析や結晶構造の解析に長けており、金属やセラミックス、無機化合物、高分子材料、医薬品など、様々な分野の製造・開発に欠かせない分析装置のひとつです。例えば、「試験中に生成した物質の成分を知りたい」、「製品や設備に発生した異物や錆の原因を調査したい」、「材料の物性値と結晶構造の関連を知りたい」などの課題の解決に役立ちます。
 この装置では、化学成分や結晶構造を知りたい物質にX線を照射し、そのときに起こる回折現象をプロファイルとして検出し(図1)、目的に応じて解析を行います。

X線回折のイメージ
図1 X線回折のイメージ
ある波長のX線を物質(多結晶)に照射すると、物質の後方にリング状の回折像が現れます。
X線回折装置では、この回折像をプロファイルとして検出します。
 この度、当社では新たにX線回折装置を導入いたしました(図2)。この装置は、大型2次元半導体検出器や大型多軸ステージを搭載し、従来に比べ高効率、高精度の分析が可能になりました。これにより粉末を対象とした分析に加え、金属部品の微小部測定や高配向材料(結晶方位が制御された材料)の解析など、材料分析への適応範囲が拡大しました。ここでは、腐食調査に関する分析例や新たに測定可能になった結晶方位解析に関する分析事例をご紹介します。
X線解析装置
X線解析装置内部
2次元回折像
図2 X線回折装置と2次元回折像
2. 腐食調査に関する分析例 〜錆にもいろいろ〜
 製品や設備において腐食に関するトラブルは重大な問題であり、当社では多くの腐食防食のご相談を受けています。腐食によって生成する錆は、みなさんの身近でも赤錆や黒錆、白錆などとして目にすることが多いのではないでしょうか?例えば、大気環境における鋼材の錆には、酸化鉄(Fe3O4)やオキシ水酸化鉄(FeOOH)といった化合物が含まれます。オキシ水酸化鉄には、さらにα、β、γの3種の結晶構造があります。鋼材の錆はこれら複数の化合物の組み合わせにより、赤色や黒色などさまざまな色を呈します。
 当社のX線回折装置では、最新版のデータベースを用いて、これらの化合物を同定することができます。このように同定された化合物から、錆の色に関する情報だけでなく、腐食が生じた環境や腐食の要因に関するヒントが得られることがあります。
 図3は、炭素鋼の大気暴露試験および複合サイクル試験(塩水噴霧と乾燥の繰り返し)によって生成した錆の分析例です。両者は異なるプロファイルを示しました。大気暴露試験ではβ-FeOOHが検出されなかったのに対して、複合サイクル試験ではβ-FeOOHが顕著に検出されました。この化合物は、沿岸部など塩化物の多い環境で生成することが知られており、腐食の要因を推定する際の手がかりになります。
大気暴露試験
複合サイクル試験
炭素鋼腐食試験片およびX線回折プロファイル
図3 炭素鋼腐食試験片およびX線回折プロファイル
3. 結晶方位解析に関する分析事例 〜結晶の向きをみる〜
 製品の性能向上をめざして、結晶の向きを揃えた材料が開発されています。このような材料は使用する向きによって強度などの物性が異なります。この性質をうまく利用すると製品の長寿命化や低コスト化などのメリットが得られます。例えば、タービン翼では結晶の向きを一方向に揃えた材料を使用し、耐久性の向上が図られています。このような材料の結晶の向きを把握することは、最適な使用条件の検討や品質管理に役立ちます。
 新規導入したX線回折装置では、多軸ステージを用いることで、結晶の向きに関する評価が可能になりました。ここでは、市販のアルミ箔とアルミ板の測定例をご紹介します。アルミ箔やアルミ板は、圧延加工により薄く引き延ばして製造されており、特定の方向に結晶の向きが揃う性質があります。
 図4は極点図と呼ばれ、高い回折強度が観測される方向に結晶の向きが揃っていることを示しています。この結果では、板厚20mm<5mm<アルミ箔の順に回折強度が高くなり、薄い材料ほど配向の度合いが高いことがわかります。
 このような結晶の向きに関する評価は、圧延や熱処理をはじめ、金属3Dプリンターなどの新たな製造技術の開発や品質管理への応用も期待されます。
技術レポート: X線回折による配向評価
アルミニウム合金の極点図(Al(111))
図4 アルミニウム合金の極点図(Al(111))
4. おわりに
 今回はX線回折装置による分析や解析の一部をご紹介しました。X線回折装置にはこのほかにもさまざまな評価項目があり、幅広い分析メニューをラインナップしております。当社では、研究開発から製造ライン、アフターサービス部門まで幅広いお客様のご要望に合わせて対応させていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
X線回折装置を用いた主な評価項目
評価項目 対象・応用例
定性、定量 ・異物や生成物などの成分分析
・金属材料やコーティング材の結晶相同定
結晶化度 ・セラミックスの結晶性評価
格子定数 ・合金の格子定数測定
結晶子サイズ ・触媒や無機化合物の結晶子サイズ測定
高温X線回折 ・昇温過程における相変態の追跡、その場分析
薄膜 ・表面皮膜の構造解析
残留オーステナイト量 ・鉄鋼材料の焼入れの確認
残留応力 ・表面処理や熱処理による残留応力の確認
格子ひずみ ・加工による格子ひずみや転位の評価
極点、配向 ・金属材料の配向性、集合組織の評価
2次元回折像 ・加工や熱影響による組織変化の観察

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(2021/1)
ソリューション事業部
分析ソリューション部
分析技術課 赤司 裕紀
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