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「微量のガスが原因となる工業製品の品質上や安全性でのリスク」に気づいていますでしょうか?
普段は見過ごしがちな材料や部品が、熱や環境変化で目に見えないガスを放つことがあります。このガスが、製品の性能や安全性を低下させる可能性があります。たとえば、以下のようなトラブルが考えられます。
こうしたトラブルは、できるだけ未然に防ぎたいものです。
このようなトラブルを未然に防ぐ効果的な方法として、「発生ガス分析」があります。この分析は、工業製品や材料が特定の条件下で発生するガスの種類や発生量を調べるものです。
今回は、当社で行っている発生ガス分析について、事例とあわせてご紹介します。
発生ガス分析を実施する目的は、大きく分けて以下の3つがあります。
発生ガスを分析する場合、ガスが実際に発生する状況を模擬的に再現し、目的に応じた分析方法を選択することがポイントになります。主な発生ガス分析の方法として、加熱ガス分析、アウトガス(放出ガス)分析、燃焼ガス分析などがあり、試験条件(加熱・放置・燃焼)に応じて使い分けています。以下に分析事例をご紹介します。
高温下で材料を加工する際に発生するガスを無害化する設備を導入するにあたり、詳細な仕様を決める必要があることから、高温作業時に発生するガス成分の調査を行いました。作業時の最大温度600℃に調整した加熱炉に、その作業で使用する材料の試験体を入れ、発生するガスを採取し、ガス成分の分析を行いました。加熱炉による装置フロー、加熱炉外観、液体クロマトグラフによる分析例を以下に示します。
![]() 図1 加熱炉による装置フロー
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![]() 写真1 加熱炉外観
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![]() 図2 液体クロマトグラフによるクロマトグラム※
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分析した結果、悪臭防止法で規制される悪臭成分(アセトアルデヒド)の発生が確認されました。この時の発生ガス中には一酸化炭素やアンモニアなどの有毒ガス成分も確認され、その他の有害ガスの成分や発生量を求めることで、作業時の換気、発生するガスの処理に要求される性能、仕様の決定に貢献することができました。
段ボールには、一般的に製造原料由来の残留物として硫黄が含まれます。この硫黄がガスとして放出されて段ボール内で滞留し、電子部品などの金属部品を長期保管中に腐食させる場合があります。アウトガスの成分や量を検討する目的で、高気密の捕集瓶(ヘッドスペース(HS)バイアル瓶)に段ボールを入れて長期保管後の発生量を模擬するため80℃に加温して発生させたときの硫黄系アウトガスをガスクロマトグラフで分析した例を以下に示します。
![]() 写真2 段ボール片をいれたヘッドスペース(HS)バイアル瓶
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![]() 図3 ガスクロマトグラフによるクロマトグラム※
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この例では、段ボールから硫化カルボニル、二硫化炭素といった硫黄系アウトガスが検出されました。また、加熱温度を上げることで、発生が促進されることも確認されました。
![]() 図4 硫黄系アウトガス発生の加熱による放出促進
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こういった分析を実施することで、長期保管に使用する梱包材のリスク評価や対策検討が事前に可能となります。なお、不具合発生後の段ボールは、硫黄系アウトガスの放出が進んでおり、分析しても検出されない場合があります。
電子部品などで接点障害を引き起こす原因として、低分子シロキサンが影響することが広く知られています。たとえば、リレーの接点表面に低分子シロキサンから酸化分解した二酸化ケイ素が堆積し、接点障害の不具合を引き起こすことがあります。不具合の発生度合は、電子部品からのアウトガスや、設置雰囲気のシロキサン環境濃度に大きく依存します。接点障害が発生した時の雰囲気ガスを、固体吸着剤とポンプから成るサンプリング機材を現地に持ち込み、採取、ガスクロマトグラフ質量分析した例を以下に示します。
![]() 写真3 サンプリング機材
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![]() 図5 ガスクロマトグラフ質量分析
によるクロマトグラム※ |
検出された低分子シロキサンガスは、使用するシリコーン系接着剤からのアウトガスと推測されました。障害原因になるアウトガスを供用前に分析できれば、換気量の再設計といった発生抑制対策や、代替品の選定が可能になります。
低分子シロキサン以外にも、可塑剤のフタル酸エステル類、難燃剤のリン酸エステル類、有機系ガスのアウトガスもトラブルの原因となることがありますので、同様の分析を行い設置環境や抑制対策を提案します。
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![]() 図6 クロマトグラム例
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今回は、発生ガス分析について事例をご紹介しました。
発生ガス分析は、見えないリスクを可視化することで安全性を確保し、品質要求をクリアすることによって、顧客の期待に応える製品を生み出すことに貢献します。製品などから発生するガスに不安があれば、目的やお困りごとに応じた対応が出来ますので、お気軽にお問合せ下さい。
分析ソリューション部 第一課 板東 克明 |
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