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私たちの身の回りには、プラスチックやゴムなどの「高分子材料」が広く使われています。例えば、自動車のタイヤや家電のパッキン、スマートフォンの筐体、さらには配管の接続部で使われるシール材など、様々な場面で利用されています。
このように私たちに身近な高分子材料ですが、高分子材料には、時間の経過とともに性質が変わる「劣化」という問題があります。例えば、洗濯ばさみがいつの間にかパキッと割れてしまった経験はありませんか(図1)。日光や雨にさらされることで、プラスチックは少しずつ劣化し、見た目に変化がなくても強度が低下することがあります。
図1 破損した洗濯ばさみ
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高分子材料は、熱や光、水、薬品、さらには物理的な負荷などの影響を受けて、少しずつ性質を変えていきます。劣化を見逃すと、製品の故障や事故につながります。こうしたリスクを防ぐためには、部品がどのくらいの期間使用できるのかを事前に把握しておくこと、また、想定より早く壊れた場合には、その原因を明らかにすることが重要です。その際、表面の状態だけでなく、材料内部で起きている変化を把握する必要があります。こうした目的で行われるのが劣化解析です。
「NMR※」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、パルスNMRは、いわば分子の動きやすさ(分子運動性)を捉える手法です(図2)。高分子材料は、長い鎖状の分子が複雑に絡み合って構成されています。パルスNMRでは、この分子の動きやすさの違いを「緩和時間」という指標で数値として表します。さらに、材料の中に含まれる「軟らかい成分」と「硬い成分」の割合を算出することができます。これにより、材料の状態を簡単に数値として把握することができます(図3)。
※NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)
図2 パルスNMR(左:装置、右:サンプル管)
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図3 パルスNMRによる分子運動性解析
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パルスNMRのメリットを2つ挙げます。
高分子材料の特性は、架橋状態や結晶化度、添加剤の配合量などによって異なります。また、高分子材料は使用環境下で様々な現象が生じ、複雑に変化します。材料の状態は分子運動性と相関があるため、パルスNMRで分子運動性を捉えることで、材料特性や劣化状態を迅速に把握できます(図4)。
図4 パルスNMRのメリット①
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硬さ試験や引張強度試験は、定形の試験片を採取することが必須ですが、パルスNMRは、定形の試験片を必要としないため、小さな部品や複雑な形状の製品にも適用できます。対象の材料において機械的特性(硬さ、切断時伸び等)と分子運動性との相関が確認できれば、製品から採取した少量の試料を用いて、物性の相対比較や耐久性評価に活用できます(図5)。
図5 パルスNMRのメリット②
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具体例として、ゴムパッキンの熱劣化評価を紹介します。高温環境(120℃)で使用されるゴムパッキンについて、時間の経過に伴う変化を把握するため、パルスNMR測定を行いました。新品時と約1,000時間経過時のゴムパッキンから得られた各成分の緩和時間と割合を図6および図7に示します。
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図6 各成分の緩和時間の比較
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図7 各成分の割合の比較
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パルスNMRの結果から、約1,000時間経過時には、配合されていた可塑剤の減少やゴムの架橋の進行により、硬化劣化が生じていると推定されました。硬い成分の割合の経時変化を図8に示します。使用時間が長くなるにつれて「硬い成分」の割合が増加しており、この傾向は別途実施した硬さ試験の結果とも高い相関を示しました(図9)。
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図8 硬い成分の割合の経時変化
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図9 硬い成分の割合と硬さ変化量の関係
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★メリットの体感ポイント
硬さ試験や引張試験を行うには平滑で大きな試験片が必要ですが、パルスNMRならどんな形状でも、わずかな破片でも問題なく測定可能です。つまり、実際に不具合が起きた製品の「現場サンプル」を評価対象とし、材料の状態を数値化できます。
今回、ご紹介しました「高分子材料の劣化解析」の他にも、パルスNMRを用いて分子運動性を観測する技術は以下のように様々な目的で活用されます。
今回は、パルスNMRを用いた高分子材料の劣化解析についてご紹介しました。「部品の材質を確認したい」、「不具合の原因を調査したい」、「材質の異なる部品の耐久性を比較したい」といったご要望がありましたら、お気軽に当社へご相談ください。今回ご紹介したパルスNMRに限らず、多角的な分析アプローチにより、お客様の課題解決をサポートいたします。
| 分析ソリューション部 第一課 森 香織 |
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