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「おとうさん、きょうは風がつよいね。」
ある日、公園で遊んでいたときに、5歳の娘がそう声をかけてきました。特別な知識がなくても、風が吹いていることや、その強さの違いに気づくことができるほど、風は私たちの日常に溶け込んでいます。風が吹いてカーテンが揺れるときや、自転車で坂を下っているとき──目には見えませんが、私たちは風の影響を様々な場面で感じています。
こうした風が製品に与える影響を調べるのが「風洞試験」です。風洞試験では、風を再現することで、製品に作用する力や流れを評価します。そのために造られた風洞試験設備では、風(空気の流れ)を人工的に発生させることができます。製品の開発や安全性の評価においては、この目に見えない風を、感覚ではなく計測によって把握することが重要となります。
バイクを例に挙げると、燃費性能を向上させるためには、走行中に正面から受ける力(空気抵抗)を小さくすることが重要です。また、屋外に設置されるソーラーパネルには、台風のような強風でも飛ばされない安全性が求められます。
これらの性能や安全性を評価する手段の一つとして、風洞試験が活用されています。
当社では、風洞試験設備※1の管理・運用を通じて、幅広い評価試験に対応してきました。
※1 製造者:川崎重工業(株)
所有者:カワサキモータース(株)
風洞試験が開発に活用されている例として、(株)モビテック様の「EV(電動)バイク開発プロジェクト」を紹介します。
同社は「EVバイクによる世界最速」を目標に掲げた車両開発に取り組まれ、当社でCFD解析※2による空力特性評価を実施しました(図1)。あわせて、EVバイクの実車を風洞試験設備へ持ち込み、空気抵抗の計測や煙試験によるカウル形状の検討などを行いました(図2)。
CFD解析結果と風洞試験結果を比較・検証することで、解析モデルの妥当性確認や、空力特性に関するデータを取得しました。その結果、2019年には同社のEVバイクが、当時の世界記録となる329km/hを達成しました。
このような評価を可能にしているのが風洞試験設備です。次章では、こうした評価を支える風洞試験設備について紹介します。
図1 CFD解析による空力特性評価(左:圧力分布、右:流線)
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図2 煙試験の風景
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※2 CFD(Computational Fluid Dynamics)解析:
コンピュータ上で空気や流体の流れを数値計算により再現し、
製品周りの風の流れや空気抵抗の傾向を予測する解析手法。
風洞試験設備では、送風機が回転することで発生した風が、風路を通り、整流格子※3で整えられ、吹出口から出てきます(図3)。その風を製品に当てることで、風による影響を調べることができます。
本設備はセミオープン式を採用しており、計測エリアだけが開放された構造となっています。製品の近くに壁が無いため、実際の屋外環境に近い状態を再現できます。また、製品の間近で風の流れを直接観察できるほか、計測機器の設置が容易であるなどのメリットがあります。
図3 風洞試験設備の概要
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※3 整流格子:気流の乱れを抑えて均一な流れに整えるための構造で、
ハニカム(蜂の巣状構造)などが用いられる。
風洞試験設備の正式名称である「二輪用実車風洞」が示すように、本設備では原寸大のバイクをそのまま持ち込んで試験を行うことができます。カワサキモータース(株)では、新規車両の開発時に本設備を用いた試験が行われています。バイク以外にも、軽自動車など比較的大型の製品の試験も可能です。
| 型式 | 水平回流式 セミオープン(計測部開放) |
| 吹出口寸法 | 幅3.0m×高さ2.5m |
| 最大風速 | 60m/s(216km/h) |
製品を設置する床面には、製品が風から受ける力を計測できる「六分力天秤」が埋め込まれています。この六分力天秤により、X・Y・Zの三方向に作用する力[N]と力のモーメント[N・m]を計測します(図4)。これらの値を取得することで、風による影響を数値として評価することができます。
図4 六分力の定義
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また、製品周囲の空気の流れを煙によって可視化することもできます(図5)。形状による流れの違いや、風の当たり方を直感的に把握できます。
図5 煙を用いた流れの可視化
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他には、台風などを想定した40~60m/sの強い風を連続して製品に当てる試験も行っています。強風環境下でも製品が正常に動作することを評価できるため、前述のソーラーパネルなど、主に屋外に設置される製品の評価に利用されています。
近年、より幅広い評価ニーズに対応するため、当社では新たな計測機器を導入し、計測技術の拡充を進めています。新たに導入した主な計測機器と、それらを用いた評価方法について紹介します。
電子式六分力天秤(図6)は、風洞試験設備の機械式六分力天秤と比較して応答性が速く、風によって生じる製品の振動や時間的に変動する荷重を計測することができます。これにより、静的な荷重評価に加え、動的な荷重評価が可能です。
また、設備の床面に埋め込まれている六分力天秤とは異なり、製品の任意の箇所に作用する荷重を計測できる点も特徴となっています。
図6 電子式六分力天秤
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くし形ノズル(図7)は、複数の位置から煙を噴出させることで、製品周辺の空気の流れを可視化するためのノズルです。広い範囲や複数箇所の流れを同時に観察できるため、流れの剥離や滞留の様子を一度に把握することができます。
当社では、製品の寸法や形状に応じた試験に対応できるよう、ノズル本数やピッチの異なるくし形ノズルを複数取り揃えています。これにより、観察したい位置や対象に合わせた柔軟な流れの可視化が可能です。
図7 くし形ノズル
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12孔ピトー管(図8)は、風速に加えて風向きの情報も同時に取得できる計測機器です。
製品周辺や特定の位置における風速分布や流れ方向を把握することで、単純な風速の大小だけでなく、「どの方向から風が当たっているのか」、「流れがどのように変化しているのか」といった、より踏み込んだ情報を取得することができます(図9)。
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図8 12孔ピトー管
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図9 データ例(矢印が風速と風向きを表す)
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近年、超大型台風や突風への警戒が高まる中で、屋外設置製品を中心に、より厳しい耐風性能が求められるケースが増えています。こうしたニーズに対応するため、当社では風洞試験設備の最大風速の向上に取り組みました。
具体的には、風の吹出口を狭くするノズル(図10)を使用し、送風機の回転数を引き上げることで、最大風速の向上を図りました。その結果、整流された領域が狭くなるものの、最大風速60m/sを確保できました。
これにより、本設備では最大風速60m/sの風を連続して発生させることが可能となり、これまで対応できなかった60m/sでの耐風圧試験に対応できるようになりました。このように、今後も高まる耐風評価のニーズに応えていきます。
図10 ノズル設置状態
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ここまで、風洞試験設備の概要や評価方法に加え、近年取り組んできた計測技術の拡充について紹介しました。直近では、流れの把握を目的として、PIV※4を用いた可視化手法にも取り組んでいます。
今後も、多様化する評価ニーズの変化に合わせて計測技術の拡充を進め、風洞試験設備を用いた各種性能評価試験に対応していきます。
風は目に見えませんが、その影響は確実に存在します。当社は、風洞試験を通じて「見えない“風”を捉える」計測技術を磨き続け、製品開発や安全性の向上に貢献していきます。
※4 PIV(Particle Image Velocimetry):粒子画像流速計測法
煙などの微小な粒子を流れに乗せ、レーザ光で照射した粒子の動きを高速度カメラで撮影・解析することで、流れの速さや向きを面的に計測する可視化・計測手法。
| トータルソリューション推進部 第二課 稲見 聡一郎 |
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