トピックス
 
1. はじめに

 近年、環境への配慮や居住性・作業環境の改善の観点から、機械設備から発生する騒音の低減が強く求められています。代表的な騒音対策技術として、以下のような手法が挙げられます。

①騒音を越境させない:防音壁の技術
②騒音を拡散させない:エンクロージャの技術
③排気騒音を低減する:消音器の技術
④振動を低減する:防振材・制振材の技術

 これまで、「①防音壁の技術」は【Webマガジン60号】、「②エンクロージャの技術」は【Webマガジン61号】、「③消音器の技術」は【Webマガジン65号】において、騒音の評価技術および対策技術をご紹介してきました。
 本記事は、「④振動を低減する:防振材・制振材の技術」をテーマとして解説します。騒音対策を検討する際には、騒音源にできるだけ近い位置で対策を講じることが重要です。ここでは、機械から周囲構造へ振動が伝播するのを抑制する手法を「防振」、機械や構造物そのものの振動を低減し、音の発生を抑える手法を「制振」と定義し、それぞれのメカニズムおよび検討事例を紹介します。

2. 防振・制振とは

2.1 防振の考え方と適用例

 図1に、防振手法の適用例として舶用エンジンを示し、そのメカニズムを説明します。
 船舶では、機械の振動が船体構造を伝播し、振動伝播音(構造を介して放射される音)として放射されることが主要な騒音源となります。このため、舶用エンジンは船体へ直接固定するのではなく、防振構造(主に防振ゴム)を介して設置されるのが一般的です。このように防振構造を設けることで、エンジンから船体構造への振動の伝達を抑制し、結果として船内外に放射される騒音を低減することが可能となります。
 図1右図に示す簡易モデルを用いて防振のメカニズムを説明します。エンジンを質量、防振ゴムをばねとしてモデル化すると、特定の周波数(固有振動数)において振動が著しく増大する共振現象が生じます。一方、防振構造には、系の固有振動数より十分に高い周波数帯域において、振動の伝達が抑制されやすい特性があります(図1の右下図中のハッチング部が防振効果を示す領域)。そのため、防振ゴムの硬さ(ばね定数)を適切に選定することで、問題となる周波数帯域の振動伝達を効果的に低減することが可能です。

図1 防振の適用例(舶用エンジン)と防振メカニズム
図1 防振の適用例(舶用エンジン)と防振メカニズム

2.2 制振の考え方と適用例

 図2に、制振手法の適用例としてヘリコプターの機体構造を示し、そのメカニズムを説明します。
 ヘリコプターには、エンジン、ギヤボックス、ロータなど複数の振動源が存在しており、これらから伝わる振動によって機体構造が励振され、その結果としてキャビン内へ騒音が伝播します。音源が多数存在する場合には、個々の振動源の対策に加え、構造物全体の振動を低減する手法として、制振材の適用が有効な対策の一つとなります。
 図2右図を用いて制振のメカニズムを説明します。構造物に施工された制振材は、構造物と一体となって変形します。この際、制振材内部の粘弾性層が変形することで振動エネルギが散逸し、結果として振動振幅が低減されます。このように、対象構造物の剛性や振動特性を考慮した上で適切な制振材を選定・施工することにより、振動低減および騒音低減を図ることが可能です。

図2 制振の適用例(ヘリコプター)と制振メカニズム
図2 制振の適用例(ヘリコプター)と制振メカニズム
3. 防振の検討フローおよび適用事例

3.1 防振の検討フロー

 防振対策を検討する際の一般的な流れについて、概要を説明します。なお、詳細な解析手法や計測条件については専門資料を参照してください。
 図3に防振の検討の流れを示します。まず、評価対象製品に対して振動源を特定、または想定した上で、低減すべき振動の周波数帯域を設定します。
 次に、防振方法を検討します。防振ゴムの選定にあたっては、要素試験によりばね定数および減衰係数などの特性データを取得します。これらの特性に加え、振幅依存性や経年劣化、使用環境(温度条件など)の影響についても考慮します。取得したデータを基に、防振ゴムの型式および支持位置を決定します。図1では1自由度系を用いてメカニズムを説明しましたが、実機では剛体6自由度運動に加え、構造物の弾性変形も影響するため、必要に応じて数値解析手法を併用します。
 最後に実機で計測し、想定した防振効果が得られているかを確認・評価します。

図3 防振対策の検討フロー
図3 防振対策の検討フロー

3.2 防振効果の評価例

 図4に防振効果の評価例として、恒温槽を用いて防振ゴムの特性を評価した結果を示します。
 図4左図に示す試験構成では、防振ゴムで支持した試験体(マス)を恒温槽内に設置し、加振機によって励振します。試験体および加振機に設置した加速度計の出力比から、振動伝達率(応答点の加速度/加振点の加速度)を算出します。
 図4右図に示す振動伝達率の測定結果では、約20 Hz付近に固有振動数が認められ、概ね30 Hz以上の周波数域において振動伝達率が1未満となっています。これは、30Hz以上では防振構造によって振動の伝達が抑制されていることを示しており、防振効果が得られていると評価できます。なお、本試験条件では、−20 ℃~60 ℃の温度範囲において、防振ゴムの特性変化は比較的小さいことが確認されました。

図4 防振材による振動低減効果の評価例
図4 防振材による振動低減効果の評価例
4. 制振の検討フローおよび適用事例

4.1 制振の検討フロー

 制振対策についても、防振と同様に一般的な検討フローを概要として説明します。詳細な解析手法や計測条件については専門資料を参照してください。
 図5に粘弾性材料の取付による制振の検討の流れを示します。まず、振動・騒音の計測もしくは数値解析による事前検討を行い、音が放射されている部位(放射面)を特定します。次に、制振材の粘弾性層の減衰特性を把握します。シェーカ上に供試体(基材+制振材の2層構造)を設置し、加振試験を行うことで供試体の振動特性を取得します。さらに、基材のみのデータも取得し、両者の差分から制振材単体の減衰特性を求めます。この測定方法は、JIS K 7391(非拘束形制振複合はりの振動減衰特性試験方法)に準拠した手法です。
 次に、制振材は対象物の剛性や減衰特性によって効果が異なるため、制振材を施工した場合の減衰効果を事前に推定します。詳細は割愛しますが、数値解析手法などを用いて、施工効果を評価します。
 最後に実機で計測し、所望の制振効果が得られているかを確認・評価します。

図5 制振対策の検討フロー
図5 制振対策の検討フロー

4.2 制振効果の評価例

 図6に、制振材の効果を評価した一例を示します。供試体はアルミ板単体およびアルミ板に制振材を施工したものとし、レーザ振動計を用いて非接触でパネル振動を計測しました。図6右図に示す周波数応答の比較結果から、制振材を施工することでパネル振動が低減していることが確認できます。

図6 制振材による振動低減効果の評価例
図6 制振材による振動低減効果の評価例
5. おわりに

 本記事では、防振および制振技術について、その基本的なメカニズムと検討事例を紹介しました。

【シリーズの総括】
 本シリーズでは、4回にわたり次のとおり騒音対策技術について、事例を交えながら紹介してきました。
第1回 : Webマガジン60号
騒音評価技術のご紹介 - 騒音を越境させない、防音壁の技術 -
第2回 : Webマガジン61号
騒音評価技術のご紹介 - 騒音を拡散させない、エンクロージャの技術 -
第3回 : Webマガジン65号
騒音評価技術のご紹介 - 排気騒音を低減する、消音器の技術 -
第4回 : Webマガジン66号
騒音評価技術のご紹介 - 振動を低減する、防振材や制振材の技術 -

 いずれの対策においても、騒音・振動計測によって騒音源や音の伝播特性を的確に把握することが重要です。当社では、騒音計測技術および予測技術を含む騒音評価に必要な技術力を有しており、お客様の目的に応じた騒音評価から、最適な騒音対策の提案まで一貫して対応いたします。

(2026/7)
製品評価ソリューション部 振動技術課
高橋 忠裕
お問合せはこちらから